この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 私付きの若い侍女を二人引連れ、廊下を歩く。とりあえずアーベルが向かったであろう、お手洗いの近辺を通りながら、王太子の執務室にいるであろうローデリヒ様の元へ向かう。

 道中、城を警備している騎士団の一師団が、そこら辺に立っている。剣を腰に下げて、二人一組で動いている彼らは、一時間は同じ場所にいるはずだった。

 私の姿を見るなり皆頭を下げるけれど、時々ほんの少しだけ驚いたように目を見張る人がいる。やっぱり私が私室近くではない公の場の近くにいるのは、珍しい事のように映るんだろうな。

 ちょっとだけ、自分の引きこもり具合を反省しつつ、得意ではない男性(・・)に自ら声を掛けた。


「少しいいかしら?」

「……は、はい!な、なんでしょう?!」


 まさか声を掛けられるとは思ってなかったらしい。冷静に頭を下げていた人を敢えて選んだつもりだったが、びっくりしたのか彼の返事は随分と上ずっていた。顔を上げた彼はかなり若い。それでも私よりも年上だろうけど。


「少年を見なかったかしら?私よりも少し年下くらいの」

「しょ、少年……、ですか……」


 困惑したように隣の同僚であろう人へと視線を向ける。助けを求められた方の同僚らしき人は、冷静に答えた。


「少年でしたら、二時間ほど前にローデリヒ殿下のご侍従が文官と連れ立ってお通りになりましたが……」

「ローデリヒ様の侍従……」
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