この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 スっとこの場の空気が五度位下がった。数いる側室達が、ハイデマリー様のお茶を飲めないなんて、といった空気を出してくる。完全に私が悪者になっていた。

 それに追い討ちをかけるようにハイデマリー様は、チラリと侍女の一人を見やる。


「ああ、もしかして、淹れた者が悪かったのかしら……?」


 ハイデマリー様に見られた侍女は哀れな程、真っ青になっていた。ここで私が頷いたら絶対侍女はクビになるだろう。もしかしたら、物理的に首が飛ぶかもしれない。

 変な風に注目を浴びてしまった私は、おそるおそるティーカップに口をつけたフリをした。


「……とても、美味しいですわ」

「そう。よかったわ……。沢山飲んで下さいね。おかわりもあるわ。ねえ?」


 ハイデマリー様が可愛らしい笑みを浮かべながら、片手を軽く挙げる。心得たように、私の近くにいた侍女がティーポットを持って私の傍に寄ってきた。おかわりしろということか。

 だけど、私のティーカップの紅茶は全然減っていない。

 ……確実に飲めということですよね。

 おまけに他の側室達は、ハイデマリー様の意を汲んでか次々に紅茶を飲み干している。そして、侍女に淹れたてを注いでもらっていた。

 完全にアウェーだった。

 怖くて飲みたくない。もし飲んで毒とか入っていたらお腹の子供まで影響がある。絶対に飲めない。
< 407 / 654 >

この作品をシェア

pagetop