この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 私はやっぱり、ここに来たことを少し後悔した。
 精一杯飲んでいるフリをしながら、私はこの状況をどうするか悩みに悩んで、冷や汗をダラダラかいていた。

 いや、本当にどうしよう。どうしようか。


「本当にどうしたの?やっぱり具合でも悪いのかしら?それとも紅茶がもうぬるくなってしまった?」


 頬に手を当てて眉を下げたハイデマリー様に、慌てて「いえ、何ともありません」と否定をする。

 本当に心臓にもお腹にも悪い。やめてほしい。更にダラダラと気持ち悪いくらいの冷や汗が出てする。

 だけど、それは一瞬にして止まった。


「なら、飲めるはずなのに……」

 ――ねえ?王太子妃様?



 悲しそうに呟いたはずのハイデマリー様の声が、勝気な声と重なった。
 息を忘れてハイデマリー様を見つめるけど、ハイデマリー様の様子は変わらない。ややしょんぼりとした瞳で私を見返すだけ。

 他の側室達なんて、もう目に入らなかった。



 ――流石に自分の夫の失脚計画が立てられていると思ったら、誰だって気になるわよね?貴方自身の生活も掛かっているもの。



 頭に流れ込んでくるハイデマリー様の声。表情は落ち込んで辛そうなまま。
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