この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 これを飲んだらいけない。いけないんだ。
 何対もの目が私に集中する。
 こっそり背後や左右を確認したけれど、ハイデマリー様の侍女らしき者達に囲まれていた。いつの間にか、私が連れて来た侍女はいなくなっている。

 その手腕は鮮やかだった。
 まるで慣れているかのように。

 八方塞がりか――、と思った瞬間、上から何かが降ってきた。


「……わあっ?!」


 それは私の持っていたティーカップに直撃し、ティーカップは中身を撒き散らしながら、温室の床に当たって砕ける。陶器が割れる甲高い音が響いた。
 一拍の後に、状況の分かっていない参加者が金切り声をあげた。

 私は思いっきりドレスに紅茶がかかったのと、いきなりの出来事に開いた口が塞がらなかったが、逃走中の犯人の真っ白でまんまるとした後ろ姿を見つけて、助けてくれたのだと分かった。

 周囲の側室達がある程度落ち着いたのを見計らう。侍女達が慌ててタオルを、私のドレスの紅茶のかかった部分へと当てる。紅茶はすっかりぬるくなっていたので、火傷の心配はない。私も驚いたけど徐々に落ち着いてきたように見せかけて、ハイデマリー様に切り出した。
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