この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「も、申し訳ございません。ドレスが汚れてしまいましたので、退席させていただいてもよろしいでしょうか?」

「……ええ、火傷は大丈夫?わたくし心配だわ」

「ドレスが分厚いので大丈夫です。ご心配ありがとうございます」


 濡れたドレスを少し摘んで一礼する。ハイデマリー様も引き留めてはこなかった。

 おそらくハイデマリー様のであろう侍女達の包囲網を抜けると、私が連れてきた二人の侍女が私の姿を見るなり安堵した表情を見せて――みるみるうちに顔から血の気が引いていった。

 ……あ、そういえば、ドレスに紅茶が掛かってるんだった。

 後宮から出たくて自然と早歩きになる。行きと同じく、そんなに時間は掛からずに国王様の執務室の近くへと出た。侍女達の方を向いて、安心させるように笑って小声で話す。


「大丈夫大丈夫。紅茶はぬるかったから火傷もしてないわ。……だけど、ローデリヒ様とかに見つかったら不味いから、隠しておいてくれる?」

「お……奥様……。でも……」


 侍女の一人がチラリと私の足元を見る。私もつられてそちらの方を見ると、毛足の長い白いデブ猫がお座りをして私をジッと見上げていた。尻尾がふわふわと揺れている。


「ローちゃんさっきはありがと〜!!ちなみにさ?この事はローデリヒ様に内緒にしてくれないかな?!」


 思わずローちゃんを抱き上げてお願いすると、ローちゃんは器用に肩を竦めて呆れたような溜め息をついた。そして、そっぽを向く。

 ……え?何このめちゃくちゃ人間っぽい動きは……。
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