この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
心当たりが多すぎる。(他)
――三十分前。
アーベルは走っていた。お茶会の場所へと戻る為に。いきなり王太子の私室の扉が吹っ飛んだ事には驚きだったが、隙を作る事は出来た。
きっと母親と祖父は心配している。殴られた頬の部分が地味に痛いが、魔法名を小さく唱えて誤魔化す。母親の目は誤魔化せそうだが、祖父の目は駄目だろう。でも、祖父はああ見えて色々考えていそうだ。今回の、アーベルの目的も。
大事に腕に抱えるのは、王太子の私室から借りてきた本――キルシュライト王国詳細図、第三巻。いや、キルシュライト王国の詳細図に用があるわけではない。
「あ……、ローデリヒ殿下。奥様がいらっしゃらな……」
小柄な侍従服を着た人とすれ違った気がした。だが、アーベルはそれよりも中庭に戻る方を優先する。目的の場所へ近付き、軽く息を整えてから母親と祖父に姿を見せ――ようとして、誰もいなかった。
「しまった……」
もう探しに行った後だったか。
入れ違いになるのもいけないので、そのまま自分の席に座った。テーブルの上にかなりの量のお菓子が乗っていたはずだったが、皿の上には何も無い。紅茶もすっかり冷えきっているはず。仕方ないので、待つことにする。
もし、帰ってきたら道に迷ったと誤魔化そう。誤魔化しきれるかは分からないが。
息を整え、本に挟まっていた紙を改めて広げる。
結果的に本は拝借……いや、半ば盗ってきてしまったが、この紙が今回のアーベルの目的だった。
「離宮へ向かう予定日は、父様に聞いていた日と違う……」
これから訪れるであろう、最悪の未来を捻じ曲げたかった。
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アーベルは走っていた。お茶会の場所へと戻る為に。いきなり王太子の私室の扉が吹っ飛んだ事には驚きだったが、隙を作る事は出来た。
きっと母親と祖父は心配している。殴られた頬の部分が地味に痛いが、魔法名を小さく唱えて誤魔化す。母親の目は誤魔化せそうだが、祖父の目は駄目だろう。でも、祖父はああ見えて色々考えていそうだ。今回の、アーベルの目的も。
大事に腕に抱えるのは、王太子の私室から借りてきた本――キルシュライト王国詳細図、第三巻。いや、キルシュライト王国の詳細図に用があるわけではない。
「あ……、ローデリヒ殿下。奥様がいらっしゃらな……」
小柄な侍従服を着た人とすれ違った気がした。だが、アーベルはそれよりも中庭に戻る方を優先する。目的の場所へ近付き、軽く息を整えてから母親と祖父に姿を見せ――ようとして、誰もいなかった。
「しまった……」
もう探しに行った後だったか。
入れ違いになるのもいけないので、そのまま自分の席に座った。テーブルの上にかなりの量のお菓子が乗っていたはずだったが、皿の上には何も無い。紅茶もすっかり冷えきっているはず。仕方ないので、待つことにする。
もし、帰ってきたら道に迷ったと誤魔化そう。誤魔化しきれるかは分からないが。
息を整え、本に挟まっていた紙を改めて広げる。
結果的に本は拝借……いや、半ば盗ってきてしまったが、この紙が今回のアーベルの目的だった。
「離宮へ向かう予定日は、父様に聞いていた日と違う……」
これから訪れるであろう、最悪の未来を捻じ曲げたかった。
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