この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 首を思いっきり横に振る国王に構わず、ローデリヒはここに来た理由を言った。


「そんなことより」

「そんなことより?!」

「アーベルがいなくなったとアリサから聞いたのですが」


 悲しそうな声をあげた国王にローデリヒは淡々とした声で続ける。その様子に、国王も真面目な顔つきになった。


「父上、何か知っているのですか?」


 ローデリヒはずっと疑っていた。あの幼いながらも聡明な鱗片を見せている――これはローデリヒの親バカ目線からだが――アーベルが、間違えてこの時代に来るのだろうか?と。

 そして、その時を狙って国王が寝室に来たのも、ローデリヒの私室を荒らしていたのも、全てが同一の目的の元、行われているのではないか、と。


「そうじゃなあ……。このタイミングでは幾つかの事が思い浮かぶのじゃが……、どこまで言っていいものか悩むのう……。下手すれば未来が変わってしまうからの。アーベルにどこまでの影響があるのか分からんのじゃ」


 ゆっくりエーレンフリートの上から国王は立ち上がった。そして、珍しく難しそうな表情で腕を組む。
 ローデリヒも同意見だった。アーベルが何かを代償にして(・・・・・・・・)わざわざ来るという事。そして、それを未来の自分が黙認している事。
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