この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アリサとお腹の子、小さいアーベル、アリサのアルヴォネンでの恨み、この間の襲撃の首謀者がまだ見つかっていないこと、離宮への引越し……、ローデリヒや国王まで含めるとキリがない。そして、アーベル以外の全員が方々に恨みを買うような覚えがあった。それでなくとも、全員が王族。狙われないはずがない。


「……え、ローデリヒ殿下?でも、さっきすれ違ったのは確かに……」


 まるで状況が把握出来ないといったかのように、困惑した声の主にその場の全員が集中する。侍従服を身にまとった小柄な姿。大きな栗色の瞳が印象的な彼女の名を、ローデリヒは呼ぶ。


「ヴァーレリー……?」

「ローデリヒ殿下。奥様がどこにもいらっしゃらないのですが」

「は?!」


 ハッとすぐに我を取り戻したヴァーレリーは、ローデリヒにここに来た訳を即座に話した。ローデリヒは思わず声をあげた。自分がアリサと別れた時から今を大まかに計算する。どう考えても、私室に帰れる時間はある。

 とても嫌な予感がした。


「ローデリヒ。アリサを探してやってくれ。ワシはアーベルの元へ行く。そろそろ戻っている頃じゃろうし」

「……分かりました」
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