この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「………………処刑台に送りたくなるな」

「えっ、ちょっ、なんで俺に向けて殺意飛ばしてるんですか?!」

「良い気分にはならない。私の嫁だ」


 イーヴォは肩を竦めた。やれやれ、答えはもう出ているのに、と。


「もうそれ、奥様に恋してるじゃないですか」


 ローデリヒは穏やかな海色の瞳を恐怖に見開いた。まるでそれが、全ての悪とでもいうように。


「……恋、ではない。妻への愛情があるだけだ」


 片手で顔を覆う。ローデリヒの顔から色はすっかりと消え失せていた。「今までのは忘れろ」と自分の分のティーセットを持って、退席するローデリヒを見送って、イーヴォはティーカップに口を付けた。


「……拗らせてるなあ」


 重症である。認めてしまえば、楽になるはずなのに。ローデリヒだって、薄々感じていたはずだ。
 そうボヤいて、イーヴォは苦笑した。
 自分も人の事は言えないな、と。
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