この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「起こしちゃってごめんなさい。ありがとうございます」

「礼には及ばない。妊娠中はよく御手洗に行くと聞くからな」


 詳しいな。

 妊娠というより……、かなり下らない理由だったりするのだけれど。

 照明のついた廊下はーーなんというか、更にホラー感が増していた。
 壁に燭台らしきものが並んでいて、そこに火が灯っているのだけれど、光源がかなり暗い。

 その光に照らされた赤い絨毯と焦げ茶色の壁が、いかにも幽霊住んでますよと言っているかのようなゴシックっぽい雰囲気が出ていた。

 泣きそう。

 そーっと、ローデリヒさんの後ろに引っ付いてたんだけど、彼は何を思ったのかクルリと私の方へと向き直った。


「両手のひらを出せ」

「え?……はい」
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