この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……不倫は流石にな」


 その後ろ姿を眺めながら、ローデリヒはポツリと零した。その呟きをイーヴォは拾う。


「……団長も勿体ないですよね」

「ゲルストナーにでも相談するか……」

「告げ口じゃないですかそれ。団長すごい怒られそうですねそれ……」


 ローデリヒは再び果実水に口を付ける。相変わらず酷い味がした。あまり味わわないように一気に半分ほど飲み干す。そして、近くの給仕に残りを手渡した。

 それを見計らってか、近くにいた侯爵がローデリヒに近付く。侯爵の斜め後ろには年頃の娘がいる。


「ローデリヒ殿下、お久しぶりです。本日は妃殿下はご参加されないので?」

「ああ、久しぶりだ。……そうだな」


 ローデリヒの返答に侯爵は痛ましげな表情をした。


「あんなことがあったばかりですからね……。心配です。私も娘も怯えておりました」

「そうか。妃には私から侯爵が心配していたと伝えておこう」

「ありがとうございます。……実は娘を今日は連れてきているのですが、エスコートして下さる殿方を探しておりまして」

「そうか。今日は未婚の貴族子息が多く参加している。きっといい出会いがあるだろう」


 侯爵が娘の話題を出した所で、ローデリヒは適当にはぐらかす。そして、「ああ」と思い出したような声でさらに続けた。
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