この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「父上が歳若い側室の下賜先を探しているようだ。侯爵、どうだろうか?夫人に先立たれとはいえ、貴方はまだ若いし、立派に侯爵としての仕事もこなしている。後添えにどうかな?」


 口元だけで笑みを浮かべる。


「父上にも進言してみようか」


 ダメ押しとばかりに、ローデリヒは国王の名前を出す。


「いえ、まだ私は心の整理がついていませんので……。それに、娘の嫁ぎ先が決まらない事には、落ち着いて新しい妻を迎えるのも難しいでしょう」

「そうか。それは悪い提案をしてしまったな」

「殿下のお心遣いには感謝致します。……妻の忘れ形見である娘には、最高の結婚をさせてやりたいと思っておりまして……」


 流石貴族の中でも上位の侯爵をやっているだけはある。食い下がってくる。

 面倒だ、とローデリヒが惰性で口を開いた時、

 ――胸に、不快感を感じた。


「…………っ、は」


 無意識に胸の辺りの服を掴む。ジュストコールに皺が出来た。落ち着かせるように深く息をしようとしても息苦しい。細い息が震えた。吐き気が襲ってくる。一気に顔に熱が集まった。


「――なので、ぜひ殿下に御相手を……、殿下?」

「っ、すまない。……酔った、ようだ」
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