この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「よかったんですか?」

「あ〜、大丈夫大丈夫」


 エーレンフリートはヒラヒラと手を振った。イーヴォもこんな事が初めてではないので、さして突っ込まずにエーレンフリートと共に走る。目的はパーティー会場に最も近い部屋。ゲルストナーはローデリヒとすれ違ったと言っていたが、奥に行っても辺りに響くのは、イーヴォの足音だけだった。

 ローデリヒが抜けた時、パーティーは始まったばかりだった。休憩室には誰もいない。近くの部屋を手当り次第に開けていた。……開けるが、物音も人影もない。流石のイーヴォも背筋に冷たいものが走った。


「……っ、やっぱり最初の部屋か?!」


 ゲルストナーに言われた方へと来たが、ローデリヒの姿すら見当たらない。顔色が悪かった主の事が、イーヴォは心配だった。

 ゲルストナー公爵はローデリヒを見間違えたのか?
 そうとしか考えられなかった。だから、イーヴォは戻ってきた。エーレンフリートと会うことはイーヴォには予想外だったが。


「殿下どこ行かれたんですかもう……っ!」


 二人分の大理石を踏み締める音が響く。最初にイーヴォが開けようとした部屋の扉は既に開いていた。近衛騎士が開いた扉の前に控えている。イーヴォが嫌な予感がして、走りながら唾を飲み込んだ。


「あっれ?なんであいつがいんの?」
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