この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ティベルデなら後宮でも生き抜いていけるだろうと思い違いをした父親に、父親程の年齢の現国王の側室に入れられた。流石にその時は胃腸薬が効かなかったくらいのストレスだった。

 嫌すぎて。

 もう既に何人も存在している側室。
 国王と同世代のハイデマリーを筆頭に、ティベルデより年上の女性ばかりだった。国王は自分の息子ほどの年齢のティベルデには見向きもせず、ティベルデは後宮でひっそりと息をするだけの側室として日々過ごしていた。

 流石にハイデマリー程の年まではいかなくとも、皆大体二十代後半で下賜されていく。ハイデマリーだけがずっと後宮にいた。

 だから、後宮の主はハイデマリー。それが暗黙の了解。

 ティベルデもどこかの貴族に下賜されていくのだろうと、密かに思っていた。いや、通常ならばその線が濃厚だったのである。

 ――数日前までは。

 だが、ハイデマリーに個人的な呼び出しをされた。
 その直後にお茶会があった気がして、新顔がいた気もしたが、ティベルデにはそんな余裕はなかった。こっそりドレスに入れて持ち歩いている胃腸薬を、これまたこっそりと紅茶に落とし、またまたこっそりと服用する。紅茶の味なんて分かるわけがなかった。
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