この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 だけど、私は気付いていた。
 お医者さんのジギスムントさんだって、私が記憶が混乱しているのではないかという判断を下した。

 違う人の身体に乗り移ってしまったのか、なんなのかは分からない。けど、記憶にある自分とは全く違うこの身体は、〝私〟のものではない事だけは確実。

 でも、それってどうやって証明すればいい?
 私自身ですら分かっていないこの状況を説明するなんて。

 そして何よりローデリヒさんが、ゼルマさんが、ジギスムントさんが私の事を異質な目で見て、私の事を排除して、本当のアリサ・セシリア・キルシュライトを取り戻そうとすることが怖かった。
 〝私自身〟の居場所が、この世界のどこにもなくなってしまう気がして。

 初めて会ったはずなのに、会ったばかりのはずなのに、なんでこんな事を思ってしまうんだろう?

 だから、私は嘘をついた。


「大丈夫です。私もまだちょっと混乱していて……、記憶喪失っていう自覚もないですし」

「それだけではない。……子供の事、一瞬でも疑ってすまなかった。その、言い訳にしかならないが、こんなに〝すぐ出来る〟とは思わなくてだな……。閨授業もアテにならないものなのだな」
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