この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ティベルデの実家は爵位の低い家だった。だから、ティベルデは国王の側室になって、結婚相手を少しでも良くしようとしたのである。
 ここで王太子の側室になるなんて計画は立てていない。


「でもね、貴女のお父様にお手紙を出したのだけれど、とても良いお返事をいただけたの」


 スッとハイデマリーは手紙を出す。ティベルデは震えながらそれを受け取った。
 内容は予想通り。王太子の側室にしてやってくれ、というもの。
 ティベルデが王太子の側室になれば、キュンツェル子爵家にも恩恵がある。

 それだけでない。現在の王太子妃は外国の人間。ティベルデが身ごもり、国内の貴族の支持を得れば、その子を国王に付ける事だって不可能ではない。

 正直言って、胃が痛い。

 ギリギリと痛みだした胃を更に苦しめるかのように、ハイデマリーは励ますようにティベルデの肩に白魚のような手を置いた。


「大丈夫よ。寵愛を得ろ、だなんて言っていないわ。そうね……貴女には王太子妃の代わりに公務をこなして欲しいのよ」

「王太子妃殿下の公務を……?」


 それって本気で王太子妃の公務を引き受け、側室の立場ながら王太子妃レベルの実権を握れというのか?

 何も大丈夫ではない。
 胃が痛すぎて気持ち悪くなってきた。
< 470 / 654 >

この作品をシェア

pagetop