この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 流石は側室になった時から国王の公務をずっと支えてきた女。後宮の主。サラッと凄いことを要求してくる。


「ええ。ほら、あの子、子供のお世話もしているから大変でしょう?」


 大変だからといって、臆病者(ビビり)になんて大事を要求するのだ。
 王太子妃をあの子(・・・)だなんて言えるのは、きっとハイデマリーしかいないだろう。

 外国の小娘など取るに足らないという事か……、とティベルデが内心戦慄しているうちに話はトントン拍子に進んでいく。


「大丈夫よ。このわたくしが良いと思って推薦したのだから。貴女にはきっとこなせるわ」


 再び言うようだが、何も大丈夫ではない。



 そして、夜会開始直後まで遡る。

 否定出来ずにここまで来てしまった……、とティベルデは扉を背に小さく息をついた。ゲルストナー公爵の前だと自然と背筋が伸びる。何か粗相をしたらいけない、と緊張してしまうのだ。

 キリキリと鳩尾の辺りが痛む。夜会用のドレス問わず、常ににこっそりと服に忍ばせてある常備薬を口に含み、水なしで飲み下した。
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