この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ここは怒る所だったのだろうか?悲しんでいた所だったのだろうか?
 仮面夫婦っぽい雰囲気があるから、未知数だなあ。

 でもね、私にとっては関わってはいるけど他人事なんだよね。

 私は達川有紗。
 アリサ・セシリア・キルシュライトじゃない。

 私の身体がどうなっているのかは分からないけど、はやく戻りたいと思った。

 これ以上、この人達に思い入れをしなくて済むうちに。


「大丈夫ですよ。あんまり落ち込まないで下さい。なんならお腹、触ります?」

「……いいのか?」

「お父さんなんでしょう?いいんじゃないですか?」


 ローデリヒさんの骨ばった指先が躊躇うようにさまよった。私は彼の手を取って自分の下腹に導いた。
 ローデリヒさんは真剣にジッと自身の手を見つめる。ほんの少しだけ、お腹がぽかぽかと温かくなった。
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