この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
(後編)家族の形とは――(ローデリヒ過去)
脆い幸せ。
「お庭の薔薇がそろそろ咲く頃ねえ……。アロイスが産まれたのもこんな時期だったのよ」
少女のような頼りなさを残したままの母親は、
「……母上、僕の誕生日は秋の初めです」
少々、おかしかった。
――十三年前、キルシュライト王国首都キルシュ。
王城の賑わいとはかけ離れた場所にある後宮。そこでもひっそりと建っている後宮の一角、ローデリヒとべティーナは向かい合ってお茶を楽しんでいた。
葉が青々と茂る季節。薔薇の花の蕾に囲まれた庭園は、静かに彼らを包んでいた。
べティーナはふわふわとしたように首を傾げる。
「薔薇の蕾を見ながら考えていたのよ。男の子が産まれたら、名前はアロイスにしようって」
「……そうですか」
いつもと同じだ、とローデリヒは慣れきったやり取りに半ば面倒くさくなりながらティーカップに手を付ける。
「……っ」
陶器のカップが手のひらに当たって、ローデリヒは顔を歪めた。手を開くと出来ていたマメが潰れている。まだ子供らしい形の手だが、皮膚は硬くなっていた。
小さい頃からかなりの負けず嫌いだったローデリヒの努力の証だった。本人はまだまだだと思っているが。
「あら?怪我でもしたの?見せて?」
優しい声音でべティーナは手を差し出してくる。おずおずとその手の上に自身の手を広げて見せると、べティーナはびっくりしたように目を見開いた。
「まあ!大変。痛そうだわ!」
少女のような頼りなさを残したままの母親は、
「……母上、僕の誕生日は秋の初めです」
少々、おかしかった。
――十三年前、キルシュライト王国首都キルシュ。
王城の賑わいとはかけ離れた場所にある後宮。そこでもひっそりと建っている後宮の一角、ローデリヒとべティーナは向かい合ってお茶を楽しんでいた。
葉が青々と茂る季節。薔薇の花の蕾に囲まれた庭園は、静かに彼らを包んでいた。
べティーナはふわふわとしたように首を傾げる。
「薔薇の蕾を見ながら考えていたのよ。男の子が産まれたら、名前はアロイスにしようって」
「……そうですか」
いつもと同じだ、とローデリヒは慣れきったやり取りに半ば面倒くさくなりながらティーカップに手を付ける。
「……っ」
陶器のカップが手のひらに当たって、ローデリヒは顔を歪めた。手を開くと出来ていたマメが潰れている。まだ子供らしい形の手だが、皮膚は硬くなっていた。
小さい頃からかなりの負けず嫌いだったローデリヒの努力の証だった。本人はまだまだだと思っているが。
「あら?怪我でもしたの?見せて?」
優しい声音でべティーナは手を差し出してくる。おずおずとその手の上に自身の手を広げて見せると、べティーナはびっくりしたように目を見開いた。
「まあ!大変。痛そうだわ!」