この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 手早く近くに居た侍女に応急処置の道具を持ってこさせ、ローデリヒの手を消毒し、ガーゼで固定した。痛々しそうにローデリヒの手を見るべティーナに、ローデリヒも気まずい気分になる。


「あんまり無理しちゃ駄目よ」

「……はい」

「よし。良い子」


 殊勝に頷く子供の頭をべティーナが撫でると、ローデリヒはようやく笑顔を浮かべた。


「おや?二人共どうしたんだ?」

「ディートヘルム様」

「父上」


 月光のような金髪。海色の瞳の男が、堅苦しい服の襟元を緩めながらべティーナとローデリヒに近づいてくる。二十代半ばの男を二人は立ち上がって迎えた。

 この国で一番尊い人物を迎える為、礼をする使用人達に慣れたように男は軽く手を振って面を上げさせる。そんな男に畏怖する事無く、べティーナは返事をした。


「アロイスが手を怪我していたんですよ」

「そうなのか?見せてみろ」


 ローデリヒが国王に手当して貰った手を見せる。二回り近く小さな手を怪我に響かないように軽く握る。


「近衛騎士団長から聞いているぞ。あまり無理はするな」

「アロイスはそんなに無理をしているの?」

「ああ。大人の騎士に勝つまで諦めないって困り果てていた」

「あら、まあ」
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