この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 負けないようにしなければならないと思っていた。ローデリヒの母親が平民だからという理由で、能力が低いなんて言われたくはなかった。

 現国王は剣の天才だ。だからその血を受け継いでいるローデリヒは、剣が上手になる可能性は充分にあった。だから剣を選んだ。弓でも、槍でもなく。

 自分が国王の息子に相応しいと認めさせたかった。

 〝陛下はべティーナ様の子供を王位につける気はないと仰っていた〟なんて声を、どうしても撤回させたくて。

 王位につきたい訳ではない。ただ、己の母親が平民だからといって、差をつけられたくなかった。


「それは良かった」


 ローデリヒの内心など知らず、国王はホッとしたようにべティーナに笑いかける。ここ最近特に寝込みがちのべティーナの事は、誰も彼もが心配している。侍女もハラハラとしていた。


「ディートヘルム様。見てください。だいぶお庭の薔薇の蕾が膨らんできたんです」

「ああ……。もうすぐ咲きそうだな」
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