この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
そこからはあまり覚えていない。いつの間にか医務室に運ばれていて、眠っていた。
目を覚ました時、ローデリヒの傍には偶然誰にもいなかった。
部屋の外で何やら言い争いをしているから、先程までは居たのかもしれない。声を出して呼ぼうとしたが、聞こえてきた母親の叫びに口を閉じた。
「ディートヘルム様!アロイスは死にかけたんですよ?!どうしてそんな事をするんですか?!」
珍しい、と思った。
基本的に母親が声を荒らげる所なんて見たことがなかったから。
「もう死にかけるような事がない為だ。我が子には無事で居て欲しいからに決まっている」
対する父親は静かに説得する。
「だからといって、毒に慣れさせるなんて……っ!アロイスの王子位を返上させてください!」
「無理だ。唯一の王子を失う訳にはいかない」
「駄目です!あの子はまだまだ小さいんですよ!」
思ったより近くにいるらしく、断片的だが話の内容が聞こえてくる。だがそれに集中するよりも、体が重くて引きずり込まれるように睡魔が襲ってきた。
「確かにまだ若いが……、早いか遅いかの問題だ」
「お願いします……っ!アロイスは……っ、あの子は、体が……っ!」
「べティーナ、今は大病も風邪も引いていないだろう?」
宥めるように話している父親だったが、それでも母親は取り乱したままだった。甲高い声が響いてくる。
「いいえ、いいえ……っ!そんなの安心出来ないわ……!だって、アロイスは産まれた時――
人の形をしていなかったんだもの……っ!」