この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
(前編)お母さんは――

尊敬するな。(ローデリヒ)

 くあっ、と小さなあくびをローデリヒ・アロイス・キルシュライトはした。

 十九歳の若き王太子。現在の国王の子供は彼一人しかいない上に、傍系もやや血が離れていた。つまり次期国王が確実に約束されている。

 だが、キルシュライト王国の成人は十六歳と若い故に、十九歳でもまだまだ子供扱いされる事が多い。
 魑魅魍魎が跋扈する宮廷社会に身を置く者として、気を抜いてはいけないとローデリヒは自らを戒めた。

 例え昨夜、熟睡出来ていなかったとしても。

 昨日動揺して風呂場に立ち入ってしまったせいで、妻から頬に平手打ちを食らった。かなり腫れそうだったのでこちらは治癒魔法で治した。だが、浴室でバッチリ色々と見てしまったので、全く眠れなかった。

 まだ十代の若い身体は、自分の思い通りには全くならない。体力が有り余っているので、多少の無茶が出来ることだけが利点だ。

 彼の妻については記憶が混乱している上に妊娠している。どう接すればいいか分からない、というのは昔からだが、さらに気を遣わなければならない。

 医者であるジギスムントも記憶については未だ解明されていない部分が多いのですが、と前置きをして症状についてアリサのいない所で教えてくれた。
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