この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
閉じかけていた瞳を思わず開けた。ローデリヒは反射的に自身の手を見つめるが、他の人間と変わっている様子はない。だが、自分の体は思うように動かない。
激しい運動をした後よりも体は重かった。
未だに両親は言い争いをしている。いや、母親がヒートアップしているのか。
どういう事かと聞きたくて、頑張って目を開いていたはずなのに、ローデリヒはいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。
次に瞼を開けた時、母親が心配そうに見下ろしていた。ローデリヒと視線が合うなり、パッと表情を明るくする。
「アロイス……っ!お父さん……!アロイスが目を覚ました……!」
べティーナに呼ばれ、ジギスムントがローデリヒを診察していく。脈を測られたりした後に、ジギスムントは小さく息を吐いた。
「だいぶ回復されましたね。胃と食道、喉を痛めておられるので、しばしの間声は出しにくいかもしれませんが、もう命の危険はありませんよ」
「よかった……」
胸をなでおろした母親に、眠る前の出来事を聞きたかったが、上手く声が出せなかったので諦めた。
また後で聞けるか、と思っていたから。
まるであの事が夢だったのではないかと思うくらい、何事もなかった。母親がびっくりする程過保護になった以外は。
騎士団に武術を練習するのにも渋るようになってしまった。危ないから、の一点張り。流石に心配は掛けたくない、とべティーナの前では騎士団についての話題は出さなかった。だけど、動き回りたいローデリヒはこっそり騎士団に行っていた。
人の形をしていなかった、その言葉が妙に気になってしまったが、鏡に映る己の姿はどこもおかしい事なんてない。まず人の形をしていないというのは、どういう状況なのか。
だから、声が再び出るようになる頃には、ローデリヒはすっかり忘れてしまっていた。
激しい運動をした後よりも体は重かった。
未だに両親は言い争いをしている。いや、母親がヒートアップしているのか。
どういう事かと聞きたくて、頑張って目を開いていたはずなのに、ローデリヒはいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。
次に瞼を開けた時、母親が心配そうに見下ろしていた。ローデリヒと視線が合うなり、パッと表情を明るくする。
「アロイス……っ!お父さん……!アロイスが目を覚ました……!」
べティーナに呼ばれ、ジギスムントがローデリヒを診察していく。脈を測られたりした後に、ジギスムントは小さく息を吐いた。
「だいぶ回復されましたね。胃と食道、喉を痛めておられるので、しばしの間声は出しにくいかもしれませんが、もう命の危険はありませんよ」
「よかった……」
胸をなでおろした母親に、眠る前の出来事を聞きたかったが、上手く声が出せなかったので諦めた。
また後で聞けるか、と思っていたから。
まるであの事が夢だったのではないかと思うくらい、何事もなかった。母親がびっくりする程過保護になった以外は。
騎士団に武術を練習するのにも渋るようになってしまった。危ないから、の一点張り。流石に心配は掛けたくない、とべティーナの前では騎士団についての話題は出さなかった。だけど、動き回りたいローデリヒはこっそり騎士団に行っていた。
人の形をしていなかった、その言葉が妙に気になってしまったが、鏡に映る己の姿はどこもおかしい事なんてない。まず人の形をしていないというのは、どういう状況なのか。
だから、声が再び出るようになる頃には、ローデリヒはすっかり忘れてしまっていた。