この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「でも、殿下は陛下の唯一の子供。ゆくゆくはこのキルシュライト王国を担っていく事になるわ。これから先の危ないこと(・・・・・)から守る為にも、今が大事よ?」


 ハイデマリーには自信しかなかった。彼女にとっての正論。当たり前の事を諭したまでの事。
 余裕の面持ちでティーカップに口をつける。

 対するべティーナは、のんびりとした口調でローデリヒに向けて言った。


「今日はダンスの先生がいらっしゃるわ。女の方だから後宮に来てもらっているの。もうすぐ来ると思うわ」

「でも……、母上」


 ハイデマリーは今日も複雑に髪を結い上げていた。キラキラとした宝石を散りばめた髪飾りに、どこぞの夜会にでも行くのかという衣装。そんな見た目のハイデマリーと母親を一緒にしたくなくて、ローデリヒは渋った。ハイデマリーは唇を釣り上げてわざと仰々しく言葉を並べる。


「あら?殿下はダンスがお嫌なのですか?」

「…………行って参ります」


 うるさい、という言葉は飲み込んだ。なぜそんな言い回しをするのか。
 大体、ローデリヒがべティーナの傍を離れたくなかったのは、ハイデマリーがいるからなのに。

 こういう所が嫌いなんだ、と負けず嫌いで沸点の低いローデリヒはムッとした顔をする。
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