この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 だから聞き分けよく出て行ったフリをして、扉に耳をペタリとくっ付けた。ギリギリ中の人の声が届く距離。


「ハイデマリー様はアロイスの扱いがお上手ですねえ」


 クスクス、とべティーナの笑い声が聞こえる。
 母親を虐めようものなら乗り込んで行く気概でいたが、思っていたのと違っていた。


「……ああいうのは、わざと怒らせるのが一番だわ」

「アロイスはハイデマリー様に性格が似てますからねえ」

「……べティーナ。貴女、体の調子は良いのかしら?」


「あまり変わらないかもしれません」と、母親は良いとは言わなかった。時間を重ねる毎に段々と体が悪くなってきている。傍で見ているローデリヒには最初は些細で気付かなかった。しかし、前よりも起きている時間が短いかもしれない、そう思うと悪くなっているのが分かるくらいの変化。


「ハイデマリー様。アロイスの事ですけれど、私はどうしても産まれた時の事を思い出してしまうのです」


 人の形をしていなかった、そう母親は言っていた。
 まずローデリヒには人の形をしていなかったと言われて、どんな姿だったのか想像がつかない。物心ついた頃には人の形をしていたのだから。
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