この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 侍女の袖を掴んだままお願いをする。ローデリヒの勢いに押された侍女は、黙っている事を承諾した。
 これでバレてハイデマリーに嫌味を言われなくて済む。

 意外にも母がハイデマリーに虐められている訳ではなかったようだった。

 だが、いつも変なことを言っているのだと思っていた言葉が、やけに現実味を帯びていた。ハイデマリーも当たり前のように受け止めている。


「あれって、本当にあった事なのかな……」


 ローデリヒは侍女について行きながら、ポツリと呟いた。



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「恋愛っていい事なの?」

「えっ?!」


 訓練の休憩中。汗を拭いながら、何気なしに近衛騎士団長に聞く。先程団長から、意識が訓練に向いていないと言われたばかりだった。

 大柄な三十代半ばの近衛騎士団長は、逞しい筋肉に流れる汗もそのままにローデリヒに詰め寄る。


「ローデリヒ殿下……。好きな子でも出来たんですか?!」

「違うけど……。恋愛って何なのかな?って思ったから」

「恋愛とは……うーん、異性を好きになる事ですかね……。良いことだと思いますよ」

「疲れるのに?」


 ローデリヒの問いにちょっと目を見張った近衛騎士団長は、眉を下げた。考え込むように顎に手を当てる。


「それは、恋愛の終わりでは?」
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