この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

キルシュライト国王。

 国王は人ではない。
 人々を導く光である。
 人々の上に立つのが凡人であってはならない。
 人間として在ってはならない。

 キルシュライト王家はそうやって、人々の上に立ってきた。
 特に最初から王になる事が決まっている者に対しての教育は、他の王族とは一線を画していた。

 親元で育てられることはない。臣下である多くの教育係にかしずかれながら育てられる。

 誰かに心を入れ込むこと等ないように。日々入ってくる情報に心痛めること等ないように。誰かが居なくなっても動揺すること等ないように。
 全ては冷静な判断を下せるように。
 合理的な考えが出来るように。

 そうして育てられたディートヘルム・エリーアス・キルシュライトは――

「最近太ろうかと思っているんだ」

 非常に、人の機微に疎かった。
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