この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 侍女の中でも悪目立ちをしていたべティーナの存在を、ディートヘルムが認識するのは当然の流れだった。
 そして、分かりやすい性格をしていたからこそ、人の機微に疎いディートヘルムであっても、なんとなく好意が伝わった。表情と感情の豊かなべティーナに興味を持ったのである。

 だから、ディートヘルムは考えたのだ。
 自身はどんな事があっても、誰に対しても、冷徹に判断を下すことが出来る。しかし、この娘はどのような選択をするのだろうか、と。

 ディートヘルムは誰かに入れ込むことも、心痛めることも、近しい者が居なくなっても動揺することもない。

 だが、きっとべティーナはそれが出来ない。

 ディートヘルム自身は自分が不幸だとは思った事はない。そんな概念すらない。
 しかし同時に、ディートヘルムが思い浮かべる全ての物事への選択肢は合理的なものしかなかった。

 合理的以外の、無駄(・・)というものは果たして意味のないものなのだろうか、と。
 きっと無駄を少し含むだけで、選択肢は無限に近いくらい沢山広がっていくのではないのか、と。

 その発想からして無駄なものだったが、ディートヘルムはべティーナと関わることを選んだ。

 相変わらず恋愛というものは分からなかったが、べティーナといる事は飽きなかった。コロコロ表情が変わるべティーナは、人の機微を悟りにくいディートヘルムでもなんとなく感情を読み取る事が出来たのも大きかった。

 それはハイデマリーも同じ。
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