この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「お前はこれで良かったのか?」


 国王の視線が庭から外されて、ハイデマリーの方を向いた。


「良かった、とはどういう事ですの?」

「ローデリヒをべティーナに育てさせた事だ」


 ハイデマリーは窓枠に両肘をつく。遠くで鳥が鳴いている。夏のはじまりを感じさせる風が微かに吹き、ハイデマリーの髪飾りを揺らした。


「わたくしは、子供の育て方なんて知らないわ。自分が親に育てられていないのに、真っ当に親として振る舞えるのかしら?だったら、親に愛情たっぷりに育てられたべティーナにお願いした方が合理的ではなくて?」

「確かに合理的ではある」

「それにローデリヒを見たべティーナが久しぶりに微笑んだから、少しでも元気になってくれるかもしれないと思ったのよ」


 ハイデマリーが空を見上げる。雲ひとつない。どこまでも青く透き通っていて、薔薇の葉が時々音を立てていた。

 咄嗟に聞いてはいけない、と思った。でも、足に根が生えたようにローデリヒは動けなかった。


「でも、面白くないとは思う時はあったわ。

 ――ローデリヒはわたくしが産んだのに、って」
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