この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
木々のさざめきも、人の気配も、動物の声も、ローデリヒの耳から全て消えた。蘇るは、己の母親の言葉。
――『薔薇の蕾を見ながら考えていたのよ。男の子が産まれたら、名前はアロイスにしようって』
――『お庭の薔薇がそろそろ咲く頃ねえ……。アロイスが産まれたのもこんな時期だったのよ』
――『貴方は産まれた時、人の形をしていなかったんだもの……!無理をしてはいけないわ……!』
――『だから、アロイス。貴方が今こうしているのは奇跡なのよ』
あれは、本当の事だった?
べティーナはどこかおかしかった。でも、それは一つだけ。一つだけ、おかしかったのならば全て辻褄が合ってしまう。
ローデリヒとアロイスは別人だったということならば、
ローデリヒとアロイスをべティーナが混同しているのならば、
べティーナはローデリヒを見ていなかったのだとしたら、
アロイスは金属のトレイに乗せられた血塗れのまま。
人の形をせずに産まれて、今は健康だなんていう事実がなかったということだ。
回復魔法だって、死んだ人間を生き返らせる事は出来ない。どんなに小さい子供であっても知っている。
不思議だったのだ。人の形をしていない胎児をどうやって健康にするというのか。人の形をしていないのに、回復魔法を使えるのだろうか。
奇跡なんか起こっていなかったのならば、不自然な点の説明がついてしまう。
――『薔薇の蕾を見ながら考えていたのよ。男の子が産まれたら、名前はアロイスにしようって』
――『お庭の薔薇がそろそろ咲く頃ねえ……。アロイスが産まれたのもこんな時期だったのよ』
――『貴方は産まれた時、人の形をしていなかったんだもの……!無理をしてはいけないわ……!』
――『だから、アロイス。貴方が今こうしているのは奇跡なのよ』
あれは、本当の事だった?
べティーナはどこかおかしかった。でも、それは一つだけ。一つだけ、おかしかったのならば全て辻褄が合ってしまう。
ローデリヒとアロイスは別人だったということならば、
ローデリヒとアロイスをべティーナが混同しているのならば、
べティーナはローデリヒを見ていなかったのだとしたら、
アロイスは金属のトレイに乗せられた血塗れのまま。
人の形をせずに産まれて、今は健康だなんていう事実がなかったということだ。
回復魔法だって、死んだ人間を生き返らせる事は出来ない。どんなに小さい子供であっても知っている。
不思議だったのだ。人の形をしていない胎児をどうやって健康にするというのか。人の形をしていないのに、回復魔法を使えるのだろうか。
奇跡なんか起こっていなかったのならば、不自然な点の説明がついてしまう。