この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「あ、動いた」


 唐突にお腹の中でポコ、と動くのを感じて私は声を上げた。ここ最近の大きな変化は、時々小さく動くのを感じられるようになったんだよね。やっぱりお腹の中に居るんだって実感がする。


「本当か……?!」

「触ります?」

「ああ」


 ローデリヒ様が目を輝かせて、傍から見てもワクワクしながら私のお腹に手を当てる。骨張った手が私のお腹を撫でるけど、特に反応はなかった。


「……やはりタイミング良くとはいかないな」

「まあまあ、まだもうちょっとお腹にいますし」


 ちょっとだけ難しい顔をするローデリヒ様。アーベルの時はこうした触れ合いはなかった。だから、ローデリヒ様は結構興味津々で最近お腹をよく触ってくる。


「少しずつだがお腹も膨らんできたな」

「そうですね。ちゃんと育ってくれているみたいで良かったです」

「魔力不足にもなっていないようで良かった」

「魔力だけは充分ありますからね……」


 アーベルの時も魔力不足にはなった事がないし。
 私が苦笑いをしている時に、ポコッとお腹が動いた。ずっと私のお腹の上に手を置いていたローデリヒ様もそれを感じたみたいで、パッと私を見る。


「う、動いた、……のか?」

「動きましたよ」


 私が頷くと、ローデリヒ様の口元がじわじわと緩む。海色の瞳をゆっくりと細めた。
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