この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「父親だと分かったのだろうな。まだ幼いのに聡い子だ」


 いや、違うと思う。
 流石に幼いとかそういった事ではないと思う。ローデリヒ様はさらっと親バカ披露してるって事に気付いているのだろうか。


「アリサ、抱き締めてもいいか?」

「え、あ、えっ?!」

「急に抱き締めたくなった」


 いきなりどうしたんだろう、と思いながら「いいですけど……」と頷く。ローデリヒ様はアーベルを起こさないように私の腰に片腕を回す。とは言っても隣にいるのでそんなに密着は出来ない。スリスリと頬をくっ付けて、こめかみにキスを落としてくる。


「……胸がいっぱいになった気分だ」

「胸がいっぱい?」


 珍しく抽象的な表現をしたローデリヒ様を見上げる。普段の無愛想さが家出しているのか、穏やかな表情をしていた。


「アリサが健康で、子も順調に育っている。アーベルも大きな病気にかかる事なく、元気だからな」


 ローデリヒ様が上機嫌そうに微笑む。見た目が王子様の嬉しそうな笑みはとても眩しかった。顔が良いって得だ……。


「昔は分からなかったんだが……、親になると分かるな。子供が健康でいてくれる事がどんなに貴重な事かが」


 以前にゼルマさんが言っていた言葉とローデリヒ様の言葉が、被った。
 ――『……健康でいてくれればいいんです。…………健康で、幸せでいてくれれば、それで』

 特別、優秀でなくてもいい。特別、尊敬される人にならなくてもいい。大多数の特別にならなくてもいい。
 王族という立場では、許されないのだろう。
 それでも、一番に願うのは健康と幸せなのだ。
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