この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

予測出来ていたことなのか?

 他の馬車に乗っているはずの宮廷医を呼ぼうとしたローデリヒ様を必死に止めて、一息ついた。


「本当に大丈夫なのか?」


 いや、過保護なまでに聞いてこられると……。
 全然大した理由じゃないし。


「な、なんでもないです……。ただ」

「ただ?」

「面と向かって褒められるのに慣れてないだけです……。恥ずかしいっていうか……」

「そうなのか?」


 ローデリヒ様が不思議そうに首を傾げたところで、彼の膝を枕にしていたアーベルがモゾモゾと動き出す。ローちゃんものっそりと起き上がる。アーベルはまだ完全に覚醒していないのか、眠そうに目を擦った。


「目が傷つくから擦るな」


 やんわりとローデリヒ様がアーベルの手を制したくらいで、馬車がゆっくりと止まった。


「あれ?もう休憩地点に着いたんですかね?」


 妊婦の私に配慮してくれたらしく、途中で幾つか休憩地点がある。でも、さっき宿場町っぽいところで休憩したばかりだった。
 次に着くの早すぎるけど、もしかしたらこの先長時間休む暇ないのかも?とか思いつつ、馬車から降りる準備をしようとする。


「……いや、そんなことはない。次の休憩地点はもう少し時間が掛かるはずだ」

「あ、やっぱり。私も早いな〜って思ってました」


 眉を寄せて難しい顔をするローデリヒ様。


「《千里眼》」
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