この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ……本当に何が起こってるのか全く分からない。
 馬車の防音性がバッチリすぎて、外の声がほとんど聞こえないし。
 ローちゃんは珍しく座面の上に立ち上がって、真っ白な耳をピクピクさせている。猫は聞こえてるのかも。

 アーベルを抱き締めたまま、私は硬直する事しか出来なかった。
 いやだって、めちゃくちゃ非常事態っぽかったし。
 ローデリヒ様があんな言動とるの初めてだったし。
 ちょっとだけ。ちょっとだけ盗み聞きしちゃ駄目かな?やっぱり駄目だよね。

 駄目とは思いつつ、気になってしまうのが人間である。

 私は少しだけ馬車の扉を開けて、細い隙間から外の様子を覗いた。


「…………は?なにこれ」


 見渡す限り、大量の光の矢。それが絶え間なく降り注いでいて――、


「来いッッ!!」


 その中からローデリヒ様が現れる。荒々しく馬車の扉を開け放ち、抱っこしているアーベルごと私を抱え上げた。

 えっ?

 そして、そのままヴァーレリーちゃんが乗っていたであろう馬に飛び乗る。ローちゃんが華麗なジャンプを決めて、ローデリヒ様の肩に着地した。
 馬車から離れて、一気に人の声が私の耳へ押し寄せてくる。
 ここまでの一連の流れが鮮やかすぎて追いつけない。
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