この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アーベルのことを考えると、何かが起こる(・・・・・・)と分かっていても、私達は離宮へ行かなければならなかったのだ。

 私がこの事を事前に知っていても、きっと同じ事をしただろう。

 命懸けで過去に来てくれたアーベル息子の為に。


「危険人物は連れては来なかった。危険人物を連れて来なければ、大丈夫という訳ではなかったらしい。……すまない。黙っていて」


 私はローデリヒ様を見上げる。
 あらかじめ教えていてくれても、私はこの状況についていけなかったかもしれない。それでも、私だけが知らない事に怒りと、悔しさを感じたのは確かだ。

 私は母親なのに、家族なのに、と。


「本当ですよ。教えて欲しかったです」


 でも、非常事態なのでローデリヒ様と16歳のアーベルにお説教は後でする事にする。16歳のアーベルにお説教出来るのかは分からないけれど。


「あらかじめ何かあると身構えさせ続けて、道中は何も無い可能性もあった。気疲れさせるのもどうかと思ってしまった。……いや、言い訳にしか過ぎないな」


 ローデリヒ様が珍しく、ちょっと落ち込むように肩を落とした。心の底から悪いと思っているのが、私にはダダ漏れである。声にしなくても伝わってくる。
 対する私は、疎外されていた理由が気遣ってくれていたせいだと知って、ちょっとだけ溜飲が下がる。

 我ながら単純だなあ……。
 それにしても、だ。
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