この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

親失格?

 小屋の中は緊張感に包まれていた。
 ローデリヒ様は《千里眼》で追っ手を確認しているらしかった。時々こめかみを揉みほぐすような仕草と、伝わってくる感情から、使うと頭痛がしてくるみたい。長時間も使えないようだった。


「思ったより追っ手が近くまで来ている。すまない、移動出来るか?」

「あ、は、はい!……あの、ローちゃんとかヴァーレリーちゃんは……?」

「ローは使い魔だから問題ない。ヴァーレリーは……イーヴォが何とかするだろう」


 なんてアバウトな。
 とか思ったけど、現時点で一番の足でまといになるのは私なので従った。ローデリヒ様からアーベルを受け取る。


「心配するな、と言ってもあまり意味がないか」


 ローデリヒ様は私の腕の中のアーベルの頭に手を乗せて、ポンポンと撫でる。

 当たり前だ。

 だって、アーベルの持っている能力は、アーベル自身を危険に晒すもの。そんなに便利じゃなくてもいいから、アーベルの立場を揺るがさない程度の能力でいい。

 そして、この緊迫した状況を私は半分くらいしか飲み込めていない。このヒリつく空気に飲み込まれてしまったら、足が震えて動けなくなる予感がしている。
 深く考えないように、自分が真っ直ぐ立てるように。
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