この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「初めに何故だ、と疑問が浮かんだ。王太子として感情論で話を進める訳にはいかない。だが、そう思ったということは、エーレンフリートに対して自分がそれなりに信用をしていた証拠だったのだろう」


 淡々、とローデリヒ様は語る。
 これはもう、終わった話だというように。


「エーレンフリートと関わった時間は確かに長かった。だが、自分にとって大事なものとは比較対象にすらならない」


 ローデリヒ様は小さく息を吐く。


「……黙っていても伝わるだろうから、きちんと言葉にして伝える。
 アーベルに命を懸けさせている私は父親失格だ。
 ただただ、悔しかった。大人の自分が、まだ成人したばかりの子供に負担を掛けさせている事にも、自分に出来ることが限られている事にも」


 それは、私だってそうだ。
 子供に命を懸けさせる私は、母親失格。


「なんの為の大人だ、と思った。この1年と少し……いや、お腹の中にアーベルがいた時からだから2年半程か。……父親をしてきて、これほど屈辱を感じたことはない」


 自然と視線が落ちる。
 腕の中のアーベルは相変わらず不安そうな表情のまま。それでもぐずることなく、良い子にしている。
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