この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 フッとローデリヒ様は兵士さんに笑いかけた。信じて貰えたのは、本当に治安が良いからだと思う。ちなみに身分証みたいなものはこの世界には基本的にない。近衛騎士さんとか、警備兵さんなどの護衛兵系の人達ならあるみたいなんだけど。

 ローデリヒ様はアーベルを抱き上げたまま街へ入る。私も続いた。
 やや兵士さんから離れてから、ローデリヒ様はこっそりと私に耳うちをした。


「大丈夫だっただろう?」


 いや、あんまり大丈夫じゃなかったと思う。
 警備兵さんは、あんまり突っ込んじゃダメなんだろうなって顔をしていた。というか、ローデリヒ様相手にビビりまくっていたようだった。

 自国の王太子の顔そのままだしなあ……。
 警備兵さんが自国の王太子の顔を知っているのかは分からないけど。


「警備兵の言う通り、このココシュカの街は治安がそれなりに良い。近くに宿がありそうだから、そこに行こう」

「はい!」


 通常通りの表情でローデリヒ様が堂々と警備兵さんに答えていたものだから、ビクビクと怖がっていた私もなんだか落ち着いていた。逆になんでそんなに平然としてられるのかが不思議だったけど、ドロドロした社交界を王太子として1人でこなしてるんだった。そりゃあ、それなりに取り繕うのも上手いわけで。

 正直、私はあんまり得意じゃないんだよね……。出来ない訳では無いってだけで。
 これでも、元公爵令嬢だし!……あんまり生かせていないけど。
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