この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ココシュカの街は綺麗な街だった。街並みはやっぱり近世ヨーロッパに近いかも。石畳に舗装された道の両脇には、商店が幾つも並んでいる。ちょっと隣りの道を見てみると、露店が多かったりする。露店が多い道の方が、人混みの騒々しさを肌で感じた。

 ローデリヒ様が選んだのは、商店が立ち並ぶ道の一角の宿屋だった。そんなに人が多い場所ではない。露店が並ぶ道が庶民向けなら、商店ばかりの方は富裕層向けなのだろう。

 そこそこお値段がしそうな外観の宿屋で、心の中が小市民女子高生の私は気が引けた。


「えっ、ここに泊まるんですか?」


 大きい庭は手入れがされているのか、花々が咲いている。建物自体も新しめ。真っ白な外壁だ。入り口のドアの取っ手なんて、よくわからない細かい趣向が凝っていた。
 絶対高いよここ。
 私の引き攣った顔に、ローデリヒ様は少し難しい顔をした。


「すまない。今は商人のフリをしているから、宿のランクもそこまで落としている。……馬小屋みたいだが、少しの間辛抱してくれ」

「馬小屋?!」

「え?……あ、ああ」


 いかにも高そうな宿屋が馬小屋みたいって……。王城の馬小屋ってこんなに立派なの?なんなら、前世で住んでた実家よりも立派なんだけど。王城の馬達めちゃくちゃ贅沢じゃん……。
 ややローデリヒ様が伺うように私の顔を覗き込む。
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