この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
キャストミス。(他)
人の喧騒の間を縫うように、ローデリヒは駆け抜ける。ジュストコールを脱ぎ、白いシャツ姿の彼は先程よりかはまだ街に溶け込めているようだった。
一時的にアリサとアーベルを宿へと留め、《千里眼》であらかじめ見ていた目的地へと真っ直ぐに急ぐ。そして、到着するなり店の扉を荒々しく開け放った。
「両替商はここか?」
まったり新聞でも読んでいたのだろう。モノクルを掛けた格幅の良い中年男性がびっくりしたように肩を跳ねさせる。
「……え、ええ。そうですよ」
両替商の男が頷くと、ローデリヒはカウンターに自分の着ていたジュストコールを置いた。
「これを売れば幾らになる?」
「これは……かなり高価そうなジュストコールですね。どちらで手に入れたのですか?」
品を見るなり、両替商は目を見張る。装飾こそは控え目であったが、使われている生地もボタンも高価なものだった。ひっくり返したりして品物を確かめている。