この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 魔力が強すぎる(・・・・)が故に、エーレンフリート自身の体が持たない事を。
 魔力が足りずに人体を構成出来なかったアロイスのように、魔力が足りすぎても人体に負荷が掛かりすぎるのだ。

 エーレンフリートはずっとずっと寝たきりだった。病人だった。そう長くは生きられないと言われていた。家族にだって、腫れ物のように扱われていた。己の魔力のせいで。

 体の成長と共に通常の生活を送れるまでにはなったが、それでも多すぎる魔力は体に毒だった。
 魔力を使わないと全身が酷く痛む。内臓も崩壊していく。軽い風邪でも治りにくい。子供だって残せない。

 自分の魔力が常に自分を攻撃しているような感覚。
 だからこそ、エーレンフリートは自分の命が特に惜しくはなかった。元々、両手の数くらいしか生きられないと言われていたのだ。近衛騎士団長は、エーレンフリートにとって魔法も定期的に使えるし、誰かを助けるなら短い命を有効的に使えると思ったのだ。

 うっかり(・・・・)20代前半まで生きたことはエーレンフリートにとっては誤差(・・)だったけれど。

 それでも、人並みの幸せも健康的な体もエーレンフリートにとっては遠いもの。もし、手に入れていたかもしれなくても、エーレンフリートにとってそれが幸せだったのかさえ分からない。

 限りある短い命の中で、エーレンフリートは幾つもの己の生き方の選択をしてきた。その中で、人並みの幸せを手に入れようと頑張ってみたら、それなりに人並みにはなれたかもしれない。
 だが、エーレンフリートはそうはしなかった。
 そこに後悔はない。
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