この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「っと?!」


 エーレンフリートは反射的に身に付けている細身の剣を抜いた。彼の経験で動いただけだった。
 片方は金属、片方は光を集めたもの。しかし、甲高い音が鳴った。エーレンフリートの金属の剣がやや欠ける。力でも競り負けるように、エーレンフリートは片足を踏ん張るように一歩後ろへ下がる。

 畳み掛けるように、国王はやや剣を引いて斜め上から切り下ろす。エーレンフリートはそれを難なく受け止めた、かのように見えた。

 エーレンフリートの頬に赤い線が浮かぶ。
 見えなかった。誰にも。

 文字通り、光の速さでエーレンフリートは切り付けられた。反応すら出来なかった。

 剣を合わせれば何となく相手の力量が分かる環境に置かれていた彼らには、分かった。目に見えた。

 この勝負の行く末が。

 エーレンフリートの額に汗が浮かぶ。


「……剣の天才はまだ衰えてない……ってか?」

「喋っている余裕があるのか?」


 冷や汗をかくエーレンフリートに、国王は凍えるような海色の瞳を向け、吐き捨てた。
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