この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
――同時刻。キルシュライト王国首都キルシュ。
光の一族でも1位2位を争う光の使い手の衝突は、激しさを増していた。激しい剣戟の音が1拍置いて響き渡る。
ぶつかり合う毎に、振動が剣を伝う。
打ち合う毎に剣を持つ手に痺れが走る。
そして、数滴、朱が散った。
エーレンフリートは後ろに飛び退って距離を取った。
感心するように、身に染みたようにしみじみとしたように口を開く。
「……どんなにハゲデブジジイになっても、国で一番の剣の使い手ってワケかぁ」
「ワシまだハゲてないもん!」
目に見えてエーレンフリートの体と衣服に切れ筋が入っているのに対し、国王の方には傷どころか重そうな服にさえ刃の跡はない。素人目で見ても優劣が付いているにも関わらず、エーレンフリートは、軽薄な笑みをずっと浮かべたままだった。まるでこの状況を楽しんですらいる。
「時間の問題っ、だろっ?!」
エーレンフリートは踏み込んで一気に距離を詰めた。
また頬に一筋の赤が走る。まるで痛みを感じていないかのような態度のまま。
再度国王から距離を取ったエーレンフリートは、落としていた腰を上げて背筋を伸ばした。
小さく舌打ちをして、持っていた剣を眼前に掲げる。
予想していたかのように、剣に大きくヒビが入った。