この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「随分と嬉しそうだこと」

 思い通りに抱っこしてもらえて、アーベルはご機嫌なのかニコニコしている。ハイデマリー様は形の良い唇を上げた。
 なんだか、随分と……。

「子供の扱い、慣れてます……?」
「別に慣れている訳ではないわ。でも、初めて抱っこしたという訳でもないわよ」
「そうなんですか?」

 私はこっそりと安堵の息を吐いて、前に出ていた手を引っ込めた。
 ハイデマリー様がふと考え込むように、一瞬瞳を伏せる。

「そうね……。これくらいのローデリヒ殿下を抱っこした事があるわ」
「ローデリヒ様をですか?!」

 今でさえアーベルはローデリヒ様をミニサイズにしたくらいそっくりだ。ローデリヒ様の小さい頃なんて……。

「絶対可愛いに決まってる……」

 思わず心の声が漏れてしまったが、ハイデマリー様は「ローデリヒ殿下にそっくりよ」とアーベルを見ながら頷く。

「ただ……、この子の方がよく笑っているわね。ローデリヒ殿下は静かな子供だったわ。わたくしにはほとんど微笑む事はなかったのよね」

 ローデリヒ様、子供の頃から無愛想だったのね……。なんとなく想像が出来る。
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