この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

伸ばした手は?

 ……ハイデマリー様からいきなり閉じ込められたんだけど。
 でも、ローデリヒ様の護衛がやられた、という事は、たぶん相当な実力者なんだろうと思う。ハイデマリー様だけ向かわせた形になってしまったけれど、彼女だけでなんとか出来る相手なのだろうか?

 かといって、私がなんとか出来る訳がないのだけれど。元々戦闘向きの能力でもない上に、私の腕の中にはアーベルがいる。お腹の中にも赤ちゃんがいる。
 私が動くという事は、この子達も危険に晒してしまう事。

 何も出来ない無力感に襲われそうになるが、私はグッと堪えてお風呂場の扉を開けた。お風呂場の壁面に嵌め込まれている燃え盛る炎のような色をした宝石――炎の魔石を力ずくで取り外す。これと透き通るような海色をした宝石――水の魔石を一定の温度で掛け合わせることで、温水シャワーになるのだ。
 炎の魔石は単体では炎が出てくる。宿屋のシャワー用の魔石なので、本職達から見るとクズ魔石と呼ばれる部類。威力には期待はあまり出来ないが……ないよりもマシ。水の魔石もついでに拝借した。

 お風呂場には小窓が1つ。人間が通れるような大きさではない。……と、なると出入口は洗面所の扉1つのみ。完全に行き止まり。ハイデマリー様が防ぎきれなかったら、かなりピンチになる。一旦この洗面所から出なければいけないけれど、出た後もこの部屋からの脱出も難しい。
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