この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……行くわよ。少しでも、人の多い場所に行った方が、……警備隊にも会えるはずだわ」
「……は、はいっ!」

 反射的に頷く。ハイデマリー様は扉に向かおうとしたが、足元をふらつかせた。先程の不自然な言葉の切り方。抑えているらしいが、肩で息をしている。

「……貴女は先に――」
「行きますよ。ハイデマリー様」

 行ってくれ、という言葉は言わせなかった。片腕でアーベルを抱えて、片方の手はハイデマリー様の手を握る。
 部屋から出て、続いていた廊下には護衛だった人らしき体が転がっていた。振り返る余裕もなく、やや早歩きで宿屋を出る。私達の、特にハイデマリー様のボロボロのドレス姿に、街路を歩いていた人々の視線を集めたのが分かった。

「警備隊って、確かココシュカの街の門のところ、でしたよね?!」

 宿屋から出て一瞬方向どっちの方向に進めばいいのかと、足を止めてしまった。ハイデマリー様は空いた方の手で、ココシュカの中心部を指差す。

「いいえ、違うわ。本部はあっち」
「ありがとうございます!」

 足元が覚束無いハイデマリー様を半ば引き摺るようにして、示された方角へ向く。アーベルも抱えた身重の体なので、この速度だったら、逆に警備隊が不審者として私達を囲む方が早いかもしれない。

「置いて行きなさい。わたくしは足でまといだわ」

 ハイデマリー様も同じ事を思ったのだろう。冷静に告げて、私が握った手を引き抜こうとする。
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