この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 南京錠から手を離す。無意識にアーベルの背中へと手を回した。男から隠すように。

 アーベルは関係ないから。

「貴方は……、トピアス・サロライネン侯爵の親族の1人ですね?」

 私の能力がきっかけで、――人生を狂わされたうちの一人。
 アルヴォネン国王に殺された人も、その親族で人生を狂わされた人も、覚えているから。

「よく分かっているじゃないか。……トピアスの嫡男だった。名前はカレルヴォ。家名はもうない」
「……ルーカス達が探していましたから」

 切れ長の黒目。黒い髪は短く切っているし、鍛えているのかそこそこ体格も良い。
 街中にいても違和感が無さそう風貌なのに。死んだような濁った瞳で見下ろされると、ゾッとする。
 何故なら、家長が反逆罪で死刑になった一家の末路は、決して楽なものではないから。
 きっと彼も、険しい人生だったのだろう。

「……目的は復讐、とかでしょうか?」

 私の問いにハッと鼻で笑った。

「随分と物わかりが良いじゃないか」

 そりゃあ、散々襲撃されまくってましたし、とか思ったけど、黙っておく。
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