この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ゆっくりとカレルヴォは刃を抜く。刃先が小窓から入ってくる光を反射した。
 この全く逃げ場のない場所で。

「……私を殺す気ですか?」

 今更だな、と彼は吐き捨てた。

「お前は、俺の気持ちも分かっているんだろう?」
「……そう、ですね」

 殺されても仕方ない事をしたのは分かっている。深く恨まれても仕方ない事をしたとも思っている。
 それでも、だ。

「お願いです。アーベルとお腹の子供は関係ない、はずです」
「そうだな」
「だから」
「見逃せ、と?」

 私の言葉に被せるようにカレルヴォは聞いた。

「そう、です」
「正直、アルヴォネン国王も含めてお前達に連なる全てが許せない。俺達が死にそうになりながら這いつくばっているその瞬間でも、お前達は幸せそうに笑っていたんだろう?!」

 死んだような瞳に激情が宿った。

「ずっとお前がどうやったら一番苦しんで死ぬか考えていた。勿論、抱いてるガキも許せないから、どうせならそいつからの方が良さそうだな」

 アーベルを抱く手に力がこもる。
 それでも、カレルヴォの手が伸びてきて、アーベルの服に指が掛かった。アーベルは不安そうに私を見上げる。
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