この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ローデリヒ様のシャツと、アーベルの真っ黒なローブをギュッと握り締める。最初は不思議そうな声をあげた2人が、頭上でギョッとしたのを感じた。

 恨まれて当然の事をした。
 殺されても仕方のない事をした。
 だから、自分の罪を背負っていくという覚悟は、持っていたつもりだった。

 目が一気に熱くなる。鼻がツンと、痛んだ。

「こ、こわ、かった……。怖かった、です……」

 ボロボロと涙が溢れてきて、目の前がボヤける。ローデリヒ様が慌てて私を抱き寄せた。

 アーベルが目の前で殺されるんじゃないかって。
 ローデリヒ様にも、アーベルにも、お腹の子供にも、もう二度と会えないんじゃないかって。

 とても恐ろしかった。

「ああ……。怖がらせてすまない……」

 ローデリヒ様がオロオロしながら私を抱き締めて、髪を梳く。ローデリヒ様のシャツを掴んでいた手を、ゆっくりと彼の背中に回した。

 落ち着かせるように、トントンとゆっくりとしたリズムで背中を叩いてくるローデリヒ様の温度を感じて、
 私はゆっくりと肩から力を抜いた。

「母様、もう大丈夫ですよ」

 私を安心させるように、アーベルは少し屈んでニコリと微笑む。私達の周りでは、騎士達が敵を縛り上げていた。カレルヴォも魔法を使えなくさせられて、連行されていく。

 終わりかけの雰囲気に包まれている中、ローデリヒ様は相変わらずのマイペースだった。

「それはそうとアーベル。お前は後でお説教だ」

 私は掴んだままのアーベルのローブを、更に握り締める。逃げないように。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のまま、私はローデリヒ様の言葉に同意した。

「ええ。そうね」
「えっ?」
< 634 / 654 >

この作品をシェア

pagetop